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それでも先輩は最後まで優しく、受験生である私を気遣う言葉を掛けてくれた。
それなのに私はショックを受けるどころか、罪悪感から解放されたと思った。
今度恋をするなら、きちんと巧斗の事を忘れてからにしようと心に決めた。
「そういや、巧斗くんはこっちに残るらしいな」
すでに合格発表を終え、4月には上京する事が決まっていた3月の半ば。夕飯の鍋をつついている時に母が言った。
「え?」
「お父さんの具合が悪いらしいで。あそこのお母さんも足が悪いやろ。お父さんの具合ようなるまで大学は休学するって聞いたわ」
私達が通う高校はこの辺りでは1番の進学校で、巧斗はその中でも成績優秀だった。
どこの大学を受けたのかは聞いていないが、きっと神奈川の大学を受けたはず。
私は食事を切り上げると、自室に行ってスマホを取った。
美優はこの事を知っているのだろうか。
堪らずに美優へ電話をかけると、数コールで繋がった。
『もしもし、来那?』
今まで連絡はlineのメッセージしかしてこなかったから声を聞くのは中学生以来だ。
あの頃よりも少し大人びた美優の声に懐かしさがこみ上げる。
「うん、突然ごめんな。あのな、巧斗が大学休学して暫くこっちに残るって聞いて……」
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