言えなかった想い

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 私の通う学校は本校ではなく分校で、全校生徒の人数は男子3人、女子5人の8人。そのうち同じ学年は私と美優、そして巧斗と(たけし)の4人の小さな世界だった。  そんな環境だから、好きな人が被るというのは至極当然のことで、“言ったもん勝ち”みたいな暗黙の了解があった。  美優は中学1年生の頃、喘息の治療の為に神奈川県から転校してきた。  都会から来た美優は田舎臭い私達とは違い垢抜けていて、まるで雑誌のモデルのようだった。  巧斗も、こんな田舎にいるのは勿体無いくらい端正な顔立ちをしていた。  誰が見ても、美男美女、お似合いの2人。  だから私は巧斗を好きだと言えなかった。  美優を応援するふりをしながら、壊れてしまえばいいと密かに願った。  初めての恋は、同時に初めての黒い感情も産んだ。  そんな自分が堪らなく嫌で、私は学校に行かなくなった。 「来那(らな)。美優ちゃんと巧斗くん来てはるで」  母が部屋をノックした。 「……寝てるって言って」  私が学校に行かなくなって1週間が過ぎた日の夕方だった。 「わかった。しゃあないなぁ……」  私は布団を頭から被った。  聞きたくなかった。  美優の声も、巧斗の声も。 「来那! 今度の土曜、皆で川原に行こう!」  階下から掛けられた言葉に私の鼓動は大きく跳ねた。  巧斗の声だ。 「(たけし)の事ならもう大丈夫だよ!」  今度は美優の声。     
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