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巧斗の落とした景品はペンダントトップにジルコニアがあしらわれた玩具のネックレスだった。
「美優にあげたら?」
と私が言うと、美優は手をブンブンと左右へ振った。
「玩具じゃやだぁ」
ドクン。
黒い気持ちが首をもたげる。
「……じゃあ……私が貰ってもいい?」
鼓動が有り得ない速さで加速していく。
私は……何を……。
「なんてね」
私は冗談ぽく笑うと、りんご飴を齧った。
「いいよ」
「え?」
「はい」と言ってネックレスの入った袋を差し出された。
「お金払うよ」
「いらん。持ってても捨てるだけやし」
ちらりと美優を見ると、彼女は笑って言った。
「貰っちゃっていいんじゃない?」
「……捨てるなら」
私は差し出された巧斗の手から、ネックレスを受け取った。
多分、私の手は震えていた。
どうか――どうか、気づかないで欲しい。
それから私達は花火を見る為に川原の土手に腰を下ろした。
「あ、蛍」
美優がポツリと呟く。
暗闇に無数の光が瞬くその光景は、とても幻想的だ。
「蛍って水の綺麗な場所にしか生きられないんだよね。……私、ここに来てよかった」
「そういえば喘息の治療でこっちに来たんやったっけ。もう治ったん?」
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