Chapter3

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 ギリっと奥歯を噛み締める。けれどそれだけではこの沸騰した血を静めることは出来ない。それにいち早く気付いたのは自分よりもゼンだった。 「セツナっ!」 「アザミぃぃい!」  セツナは触っていた柄を握り、刀を剥き出しにする―――前に、フワリと風が髪を巻き上げる。気付けば目の前にはゼンの手があり、その手には中身が入ったままのワイングラスがあった。  いつ投げられ、いつゼンが取ったのだろう。瞬きなどしていなかったのに。  一瞬のうちに起こった出来事にセツナの頭の中が真っ白になると同時に、ゼンがギュッとセツナを抱きしめた。 「ごめん、セツナ」 「・・・なんで、お前が謝るんだよ」 「早く戻れっていう命令を切ったのは俺だ。怒るなら俺に対してだよ」 「でも、お前は知らなかっただろ」 「うん。それでも俺が悪い」  ごめんね、セツナ。  謝ってくるゼンにセツナは唇を噛み、彼の肩に顔を埋める。  決してゼンは悪くない。悪くない。悪いのは、 「最初に言った筈だ。お仕置き、だと」  この遊ぶことしか考えていないアザミだ。 「まぁ、試しでもあったけどなぁ。奴らの強さがどれくらいか」 「奴ら?誰のこと」  ゼンはセツナを抱きしめたままアザミに向けてワイングラスを投げ返す。その中身が零れぬままアザミの手に戻れば、彼はそのワインを一口飲み、まるでチシャ猫のように口角を吊り上げ言う。 「政府が作った対ブラックの人間兵器―――」 「―――グレイだ」  カツン、カツンと音を立てながら白い廊下を歩いて行く。  どうやらウルが研究所を抜け出して、ブラック一人に悪戯を働いたらしい。ノア博士に怒られたらしいけれど、きっと彼女のことだ、気落ちはしていないだろう。だからきっと今頃・・・。  チェネシスは想像しながらクツクツと笑う。 「さて、どうかな?」  廊下と同じ白い扉の前に立つと、シュン、と音を立てて自動に開く。その先にはまた白いテーブルと椅子が並んでおり、そこにはチェネシスの想像通りウルとダリアがいた。 「ちゃんと反省してるの?ウル」 「ごめんってダリ姉、早くブラックと戦いたくてうずうずしちゃってさぁ」 「うずうずしたから地上に降りた、なんて理由が通ると思ってるの?ノア博士も怒っていたでしょう」 「怒ってたけどぉ、対等に戦えることを喜んでたよ!」 「だからってウルも喜んでいいわけじゃないでしょっ!」 「うぅ・・・」
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