暇と退屈

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 私は船内をあっちへこっちへと歩きまわる。最初は船内マップを見ながらあちらこちらへと足を向けていたが、同じところを行ったり来たりしている内に、船内の構造を把握してしまった。  未知が既知に変わると、また暇が顔を出す。一時間ごとにバーカウンターで酒をもらうが、酔うこともできない。  デッキに出てみる。窓越しに見ていた夕景の眩しさが増す。私はデッキにいくつかおいてある椅子に腰かけ、誰に言うでもなく「暇だ」と声に出してみる。  大きな仕事を成し遂げた報酬としてもらった休暇。旅館で三日ほど体を休めようと考え、宿を予約した。そんなことは初めてだったので、気分が高揚していたのだろう。同僚から提案された船旅という言葉がとても魅力的に思えた。別に船旅がつまらないというわけではないが、することがないというのは、なんだか落ち着かない。毎日働き続けていたが、そんな働くだけの生活が自分の中の当たり前になっているのだろうか。 「まさか」  そんなことはないだろう。ないと思いたい。 「ないよな」  ないだろう。 「ないよな?」  誰に訊いているのだ。 「暇だなぁ」  言葉は小波と溶け合い、潮風に流されどこかへと飛んでいく。そのうちこだまのようにどこかの誰かの耳に届くかもしれない。  日が沈み、影が消えていく。沈む寸前の太陽は蝋燭のように淡い光を放ち、空をぼんやりと照らしている。 「もう夜だ」 「そうですね」     
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