5/16
前へ
/33ページ
次へ
「兄に手を出すのはやめた方がいいわ。もう関わらないで。あなたがガーランドだって母に言ったから兄は罰を受けなかった。その点は感謝しておく。だからさっさと帰って」  その時、紙貼りのドアが横に開いてカイが入ってきた。俺の顔を見てぱっと笑顔が広がった。無表情なんかじゃないじゃないか。  妹がカイの手を引っ張った。 「彼はもう帰るって」  ゆっくり喋りながら妹の手が動く。不思議な手の動き。カイがこっちをチラッと見て、すごいスピードで手を動かしていく。でもその間、一言も喋らない。  妹が諦めたような顔でこっちを向いた。 「兄があなたを夕食に招待したいって」 「おい、今の、何だよ」 「今の?」 「手、ずっと動かしてたろ? 何でこいつは喋んないんだよ」 「兄は聞こえないし、喋れないからよ。あれは、手話」  妙な成り行きで、今俺はこいつと向かい合って飯を食ってる。椅子じゃない。「たたみ」というらしい変な床に直接腰を下ろしている。そこで四角いクッションの上に座ってるけど、体が不安定で食いづらい。カイは相変わらずピシッとした姿勢で飯を食っている。  母親がこっちで食事を って言ってるのが聞こえた。声からして俺の苦手なタイプだと思う。どうもさっきの妹がケンカ腰に喋ってるみたいだ。  妹がやってきて食ってる俺を見下ろした。 「母が、あっちに食事を用意したって。悪いけど行ってくんない?」    
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加