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「兄に手を出すのはやめた方がいいわ。もう関わらないで。あなたがガーランドだって母に言ったから兄は罰を受けなかった。その点は感謝しておく。だからさっさと帰って」
その時、紙貼りのドアが横に開いてカイが入ってきた。俺の顔を見てぱっと笑顔が広がった。無表情なんかじゃないじゃないか。
妹がカイの手を引っ張った。
「彼はもう帰るって」
ゆっくり喋りながら妹の手が動く。不思議な手の動き。カイがこっちをチラッと見て、すごいスピードで手を動かしていく。でもその間、一言も喋らない。
妹が諦めたような顔でこっちを向いた。
「兄があなたを夕食に招待したいって」
「おい、今の、何だよ」
「今の?」
「手、ずっと動かしてたろ? 何でこいつは喋んないんだよ」
「兄は聞こえないし、喋れないからよ。あれは、手話」
妙な成り行きで、今俺はこいつと向かい合って飯を食ってる。椅子じゃない。「たたみ」というらしい変な床に直接腰を下ろしている。そこで四角いクッションの上に座ってるけど、体が不安定で食いづらい。カイは相変わらずピシッとした姿勢で飯を食っている。
母親がこっちで食事を って言ってるのが聞こえた。声からして俺の苦手なタイプだと思う。どうもさっきの妹がケンカ腰に喋ってるみたいだ。
妹がやってきて食ってる俺を見下ろした。
「母が、あっちに食事を用意したって。悪いけど行ってくんない?」
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