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剣呑なその声がまるで聞こえたかのように、カイが手を動かした。
「でもね、カイ!」
カイが人差し指を口に当てた。これは俺にも分かった。
俺に向いたカイが微かに頭を動かした。あっち って方と、こっちに。後は多分俺の返事を待っている。
「おい…こっち って、手話じゃどうやるんだ?」
妹が驚いた顔をした。カイが俺の唇に指を差した。
「話せって? そう言ってんのか?」
「キース、もっとはっきり口を動かして。その方が唇を読みやすいから」
俺は頷いて、カイを見た。
「こっちで、いい。こっちで 食うよ」
カイはにこっと笑うと、また箸を持った。
妹が外に見送りに出てきてステラだと名前を教えてくれた。
「ありがとう。カイと食べてくれて。この後カイは罰を受けるだろうけど、それでもきっと喜んでるわ」
「罰って?」
「母に逆らったから。多分しばらくは食事抜き……」
なんだ? それ。
「たったあれだけのことでそんな罰を受けるって、どういうことなんだよ!」
「あなた…カイを気にしてくれるの? カイに何かしようと思ってたんでしょう?」
そりゃそうなんだけど。今はそんな気分はどこかに行ってしまっていた。
「いいから話せよ。カイは大学じゃ結構誤解されてるぜ。俺が気にかけてるって話が広まればちっとはマシになるよ」
「カイはそんなこと望まないし、きっと気にもしないと思うけど。でも…ありがとう。カイは父が浮気した相手との間に生まれたの。母は外聞が悪いからってカイを引き取ったけど、 何かにつけて辛く当たるのよ」
「親父さんが守ってやりゃいいじゃないか」
「それは無理。父は…その人とカイとドライブしてる時に事故に遭ったから。カイが5歳の時」
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