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しばらく経って構内でカイを見かけた時、その背中を追った。歩き方は静かだが動きは軽やかで早かった。
俺が後ろにいるのが分かったのか、チラッと振り向いてクスッと笑う。それでも歩くスピードは緩めない。
旧校舎の裏手。そこに入るのは初めてだった。『道場』ってのは割合広かった。床は木張りだがピカピカに磨き上げられている。人っ子一人いない。
入り口で靴を脱ぐと脇にある小部屋に入っていった。しばらくして出て来た時には、白い上着に長いスカートみたいなもんを着込んでいる。『日本』の『 kimono 』に似ていた。
座って正面上の横に長い額縁をじっと見上げると、それに向かって手をついて深々とお辞儀をした。
作法なんだろうが、額縁に礼をするっていうのは不思議な図だ。額縁にはただ字が書いてあるだけ。
誰も見てないのに、こんなこと、毎回やってるんだろうか。
ようやく顔を上げると外に突っ立ってる俺ににこっと笑顔を見せた。手を どうぞ と中に振る。俺は誘われるままに中に入った。
「おまえ ひとり なのか?」
ゆっくり口を見せて喋った。カイは微笑んだまま頷いた。
脇に置いてあった少し湾曲した棒を取り上げる。手慣れた手つきでそこに弦を張った。手に布を巻いていく。まるで手袋みたいな形。その上に革のグローブをはめた。
弓を持って立ち上がると的に体を真横に向けた。正面は座ってる俺に向いている。
足を弧を描いて開いた。不思議だ、カイの細い体がどっしりとしていく。斜め下に弓に軽く番えた矢を持ったまま目を閉じて何度も静かに深呼吸。
顔だけを真っ直ぐ的へ向ける。一際息を深く吸って腕が上がっていった。真っ直ぐ後ろに上がった右肘が目いっぱい矢を引いている。
でも力んだ表情は見えない。ピンと張った右手が弓を握っていた。体が開ききっている。
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