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そのまま動かない。ほんの少しずつ息を吐いているのか、肩から力が抜けていく。
静かだ。こっちの息が…詰まる……。
目の前でさっきまで動いていたのを見てなきゃ、写真だと言われても信じそうだ。
――早く打ってくれないだろうか――
俺が息を止める必要なんて無いのに、どうしても吸った息を吐くことが出来ない……。
ビーーン!!
いつ矢が放たれたのかまるで分からなかった。矢は、やや弧を描いて的に突き刺さった。的の真ん中で震えてる矢。
俺はようやく息を吐いた。矢が飛んだ後の動かないカイの姿はきれいだった。カイは姿勢を真っ直ぐにすると弓を脇に抱えて的に一礼をした。
俺は魅入られたようにその一連の行動を見ていた。
そのまま俺がそこにいるのを忘れたように30回ほどそれを繰り返した。矢が放たれるのが、今か今かと固唾を飲んでただ見守る。
それだけのことなのに、体が力む。拳に力が入る。的を射抜く時もあれば、脇に逸れる時もある。けれどカイの表情にも動作にも何の乱れも無い。
ふっと横を向いて、やっと俺の存在に気づいた。自分が呼び入れたことも忘れてたような顔。『ああ』と、思い出したのかそばに近づいてきた。そばに置いてあったバッグからメモとペンを取り出す。
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