第1章

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 それにしても、いったいぜんたい、どんな連中なんだろう。新宿のゲイバーあたりで働いてるオカマか。  だとしたら、オカマにしておくはもったいないほどのしゃれた名前だ。女装して、厚化粧でもしているのだろうか。  このマンションは郵便物を投入するためには、いったん建物の外へ出なくてはならない造りになっている。 (届けてやるか)  服と、まるで色の合わない口紅。パンストからはみ出す、すね毛。想像すると、腰が引けてくる。  その一方で、自分とは縁の無かった世界に住む、橘咲弥という男に不思議な興味が湧きはじめていた。 (隣人がどんな人間かを知るのは、地域住民の義務でもある……)  自分でも、なんて自己満足で都合の良い論理なんだろうと思いつつ、橘宅の前まで来ていた。  ドアフォンを押し、手持ちぶさたにドアノブが回るのを待っていると、人が室内で動く気配がした。廊下を歩くような音とともに、橘が玄関に向かってやって来たようだ。 「ん?」  そのまま、ドアの前で立ち止まった気配がするが、扉はすぐには開かない。  ひょっとしたら相手も、覗き窓からこちらの様子をうかかがっているのかもしれない。「怪しいものではない」と言うがごとく、桔梗はドアスコープに向かって胸を張った。 「あ……」  カチャリと音がして、徐々にドアの隙間が広くなっていく。  いきなり、異邦人とでも出くわしたみたいに、その場に釘付けになる。そのまぶしさに、目を細めながらも、しっかりとその相手を見届けた。 「はい?」  怪訝そうな顔で現れた青年に言葉に詰まり、桔梗はただ視線を泳がせる。 「あ、あの……」  じっと、自分に向けられる視線に、ゴクリとのどを鳴らしてしまった。と同時に軽い目眩さえ覚えて、開きかけた口をとじる。彼のそのまなざしに、捉われてしまったかのように。  大学生くらいだろうか。年は自分より二、三歳若いくらいだ。  知的な黒い瞳と口角のやや上がった唇が、全体を清楚な印象に仕立てている。早い話が、顔の造作一つ一つがはっきりとしていて、それらのバランスがいいのだ。 (と……見とれてちゃ、いけない)  橘が桔梗の次の言葉を待つように、黒い瞳で自分を見つめ返しているのに気付いて、はっと我に返る。 「僕は、となりに住んでいる桔梗と申します」  桔梗は、それまで男の審美なんか取るに足らないことと思っていたが、とても端正な容貌だと感じた。
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