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「おはよう」
私が目を覚ますと、まだ指はつながれていた。
しかし灘さんはベッドサイドに座っていて
私の腕は布団の中にある。
「あのままでは風邪をひくだろう?」
あまりに甘やかせる声が囁く。
「おはよう、彩綾。朝食に行こうか」
「はい」
むにゃ、とベッドから起きあがる。
「……////」
灘さんは目をそらした。
頬を染めている。
「……」
私はなんとはなしに下を見た。
襟元だ。少しだけ寝乱れていた。
「灘さん、手を離してください」
「やだ」
「着替えられません」
「……くそっ!」
手を離された。
「灘さん」
「なんだ」
「着替えてきます」
「……ああ。俺が向こうで着替えるから彩綾はこのままいなさい」
「でも……」
「鏡が使いやすい方が良いだろう?」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。君は礼儀正しいな」
慎み深いし、と足され
私は切なくなる。
灘さん、私は。
結婚式に男が乱入するような女です。
それなのに、天女をもてなすみたいに
うやうやしくされたら
気が狂いそう。
私は立ち去る背中を見送る。
いつか
あなたを愛してしまうだろう。
不器用で誠実で
熱くて激しいその魂の器ごと。
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