第1部 第1章 運命と結婚すると私は

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着替えて朝食。 ホテルのラウンジに向かった。 「灘さま、おめでとうございます」 ホテル側から披露宴について祝福を受ける。 私はいたたまれない。 だって、結婚式に彼が乱入した。 結婚式に男性に強奪されかける新婦…… 醜聞だ。 なのに灘さんは微笑み、会釈した。 「ありがとうございます」 私を促し、朝食をすすめる。 「なににしようか、彩綾」 「胃が動きません」 「じゃあ柑橘系のジュースも無理か。 薄い紅茶にするか?」 「優しいです、灘さん」 「俺は一生、君を喰わせたい」 「役にたたないのに?」 「自虐など、君には不要だ。 君が俺を選んだように 俺もまた君を選んだ。 それだけのことだ。 これからの人生、2人で化学変化をしていったらいい」 「化学変化?」 「ああ。染め物と同じだ。 2人が綾なす色で互いを染めていけばいい。 他人の批判に気持ちを委ねる前に 俺の絶対幸福を考えてくれ」 「……」 申し訳なくて だけど「ありがとうございます」と呟く。 「ああ」 灘さんは笑む。 溶かす眼差し。 あたたかな日差し。 海が見える。 「散歩でもするか」 「はい」 潮が多い庭にも 手入れが良いためか冬の花が咲いている。 「きれい」 「ああ」 椿の実で作る簪や笛の話をし、 梅林や竹林を歩いた。 「疲れてないか」 「大丈夫です」 赤土坂のため、手をつないだ。 心に灯りが灯るようだった。 私はこの仄かな光の中、 生きてゆこう。 そう思う。
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