第1部 第1章 運命と結婚すると私は

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結婚式に、あのひとが走りこんできた。 「彩綾!行くな!」 メガネを曇らせて。あのひとは走りこんできたのだ。結婚式場に。迎えにきたのだ、ついに私を。 花嫁である私を。 「彩綾!今更かもしれないけれど、俺は君が好きだ!」 テノールの優しい声……。 細身の体、優しくて頼りになる会社の先輩。私が好きだった人。その人が叫びながら結婚式に走りこんできた。息を切らして、白いシャツを汗に染めて。 私の結婚式に。 私と、灘湊一郎さんとの結婚式に。 「病めるときも健やかなるときも」と神父さんが 灘湊一郎さんに誓わせ 今、まさに私が、というときに彼は飛び込んできたのだ。 (遅い) 私はかぶりを振る。 (だって、遅すぎるもの) 私は頭の中が真っ白だった。 (もう今更戻れない。 さようなら、鳴海さん) 『病める時も健やかなる時も汝、この男を愛し、この男とともにあることを誓いますか』 結婚式の定型文が読まれた、その瞬間に、鳴海航先輩が現れたのだ。 「誓います」 私の固い声が響いた。ざわめきすら躊躇っている小さな教会の白い壁に。私の声は私の耳にも楔を打つように鳴った。 新郎である灘湊一郎さんの目が、大きく開いた。
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