第1部 第1章 運命と結婚すると私は

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゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。 結婚式終了後。 私たちは式場近くのホテルに宿泊を予定していた。 私は記憶がない。 交通事故に遭い、天涯孤独になったのだが、寂しさを感じられない。人間関係のほとんどを忘れてしまっている。 今まで誰かと暮らして生きてきたという記憶がない。 つまり、今まで誰と付き合い、恋に落ち あるいはキスやそれ以上の関係があったかすら覚えていない。 どうやら恋愛していたらしいし苦悩もあったようだ。そして恋の上書きもした。鳴海航先輩のことを好きなのだと思う。だから、覚えていなくてもこんなにも胸が苦しい。 でも。私は。 私は恋を忘れて嫁いでいく。 ホテルは格調高かった。 美しいロビー 赤い絨毯 広い階段の隅には、たくさんの花が飾られていた。 静かに流れる室内楽 巨大な窓の向こうには 人工的といえども森と小川が煌めいている。 私は灘湊一郎さんが宿泊手続きをしている後ろ姿を見つめ ピアノと大きな花瓶の間に立っていた。 やがて振り返る灘さんのかすかな笑み。 切なさを宿していた。 「彩綾」 甘やかしてくれる、低く緩やかな 弦楽器みたいな声。 「おいで」 その声が“本当に良いのかい?”と尋ねていた。 “君はあの男を忘れられるのかい?” “君は彼が好きなんじゃないのかい?” もっと早く。 結婚式より早く。 迎えにきてくれたら違っていた。 たぶん、違っていた。 しかし鳴海航さんは。 結婚式当日に しかも宣誓の現場で私を攫おうとした。
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