第1部 第1章 運命と結婚すると私は

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ホテルの部屋は最上階にあった。 まるでティアラみたいにきらきら光る夜景。 美しい部屋は豪奢なのに嫌みがない。 「彩綾。疲れただろう」 灘さんは荷物を置き、微笑んだ。 「ごめんなさい」 「なにを謝る」 「……だって……」 「君のせいではない。 そんなことより、ゆっくり休みなさい。 シャワーでも浴びると良い」 「あ、あの……」 「俺は君とは眠らない」 「……」 え? 「手を出せないだろう?」 悲しげな笑み。 「君はあの男が今でも好きだ。 今も昔も彼を愛してる」 「……」 「迎えにきてくれたのに。 君は本当に頑固なんだな」 「……ちがいます」 「なら、俺に気を遣ったんだな。 相思相愛なんて、夢みたいな物語なのに。 俺は君を傷つけたな」 「……ちがいます、灘さん」 「灘さん、か…。 まだ籍は入れていない。 だが彩綾。 君が彼を好きで 彼が君を恋しく思っていても」 灘さんは静かに笑った。 「俺の方が愛してるよ」 「……灘さん……」 「君を幸せにする。 何が君の幸せかわからないが。 俺なら君を幸せにできる」 「……」 「君の幸せを百年先も模索し続けるから。彩綾」 だから、君を抱かない。 君はゆっくり休むといい。 私はバスルームに入る。 アップにされた髪をほどく。 花嫁用のメイクや、ドレスの邪魔にならないランジェリー ビスチェを脱ぎ捨てる。 裸になった私は不思議と美しかった。 今日は初夜なのだ。 彼は花婿で 私は彼の愛する妻で 私たちは神の前で誓い合ったはずなのに。 私はシャワーを浴びる。 この音は灘さんに響いているのだろうか。
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