第1部 第1章 運命と結婚すると私は

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鈍感な私に対し、灘湊一郎さんは目を細める。 男らしいくっきりとした瞳が、きゅっと絞られ、漢の可愛らしさが垣間見られた。ほんの少し声まで少年のようになる。 「心臓が踊るって、ああいうことを言うんだろうな。 不整脈みたいになった。 君は尊敬する人のお孫さんというだけではなく、 君自身がかわいらしくて」 「……」 「早く一人前になって、 君に会いたい… 真正面から君に申し込みたいと願って… 俺は今、夢が叶ったところだ」 「灘さん……」 「俺は……口下手なんだ、本当は。 女の子を口説いたことなんかない。 無粋者だから、昔の君も随分と往生していた」 指が髪に入る。 「君が幸せを感じられるようにしたい」 「……」 涙が溢れた。 私は灘さんを振り返った。 座っている私。 背の高い彼。 遠くで見つめ合う。 彼は目をそらした。 「地獄だな」 「え」 「天国にも血の池があるんだな、くそっ」 「くそ?」 「いや……。君は眠ると良い」 「灘さんは?」 「頭を冷やす。体も冷やさないと無理だ」 「むり?」 「君は酷いな。こんな言葉をオウム返しにするな」 彼の目は吸い寄せられたように 私のガウンの襟元を見つめている。 「灘さん……」 「……頭が痛い」 「え」 「君がかわいくて体がきつい。 ちょっと出かけてくる。 ひとりで寝ていて」 「やだ」 「んぅ?」 「いや。ひとりはいや」 「彩綾」 「結婚式のあとだもん……」 白く美しい部屋を間接照明が染めている。 「今夜は一緒にいてください……」
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