582人が本棚に入れています
本棚に追加
鈍感な私に対し、灘湊一郎さんは目を細める。
男らしいくっきりとした瞳が、きゅっと絞られ、漢の可愛らしさが垣間見られた。ほんの少し声まで少年のようになる。
「心臓が踊るって、ああいうことを言うんだろうな。
不整脈みたいになった。
君は尊敬する人のお孫さんというだけではなく、
君自身がかわいらしくて」
「……」
「早く一人前になって、
君に会いたい…
真正面から君に申し込みたいと願って…
俺は今、夢が叶ったところだ」
「灘さん……」
「俺は……口下手なんだ、本当は。
女の子を口説いたことなんかない。
無粋者だから、昔の君も随分と往生していた」
指が髪に入る。
「君が幸せを感じられるようにしたい」
「……」
涙が溢れた。
私は灘さんを振り返った。
座っている私。
背の高い彼。
遠くで見つめ合う。
彼は目をそらした。
「地獄だな」
「え」
「天国にも血の池があるんだな、くそっ」
「くそ?」
「いや……。君は眠ると良い」
「灘さんは?」
「頭を冷やす。体も冷やさないと無理だ」
「むり?」
「君は酷いな。こんな言葉をオウム返しにするな」
彼の目は吸い寄せられたように
私のガウンの襟元を見つめている。
「灘さん……」
「……頭が痛い」
「え」
「君がかわいくて体がきつい。
ちょっと出かけてくる。
ひとりで寝ていて」
「やだ」
「んぅ?」
「いや。ひとりはいや」
「彩綾」
「結婚式のあとだもん……」
白く美しい部屋を間接照明が染めている。
「今夜は一緒にいてください……」
最初のコメントを投稿しよう!