第11話 土日のボク達

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今日は年末。 ボクは冬休みなので、雪が降る地域の温泉旅館に泊まった。 つまり、登校の心配がないんだ。 東京は本当に便利で、国内のほとんどが日帰りできる程アクセスが良い。 なので、週末に色んな場所に行き、その地の歴史や世界遺産に触れることはボクの一番の楽しみだ。 この時ばかりは、この家に生まれてきて良かったと想う。 東北の仙台。 ボクが震災後に避難生活を送った街だ。 小学校の6年間を過ごしたが、下校するとすぐにお父さんが迎えに来ていたから、あまり友達と遊んだ記憶がない。 しかも今は女の子の姿をしているから、かつての同級生とすれ違っても、誰も気づかないだろう。 誰もボクの事を知らないし、ボクも皆の事を知らない。 だから、帰郷したという意識もなかった。 今回の宿泊先に選んだのも、露天風呂に雪景色なんて、風情があると想ったからだ。 東北の奥座敷と表現される秋保(あきう)温泉。 ひと際、露天風呂が美しい宿だった。 深夜に部屋を抜け出す。 お父さんは、晩酌をして、すっかり良い気分で沈むように眠っている。 ボクは、スリッパを履いていたが、音を立てることなく、露天風呂へ向かった。 火曜日のありすお母さんの訓練の賜物だ。 浴衣の足元が冷たい風になびく。 でも、これを越えると美しい篝火(かがりび)と露天風呂が待っている。
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