第11話 土日のボク達

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深夜に露天風呂へ向かったのは理由があった。 一番綺麗な景色を楽しめる露天風呂は時間によって、男湯・女湯に分かれるが、今の時間は混浴になっていること。 別に混浴が目当てではない。 日本人は、混浴だと遠慮して入ってこないからだ。 もう一つは、下弦の月が眺められるからだ。 ボク以外に湯浴みをする客がいないことを確認し、露天の脱衣所に入る。 タオルが濡れないように、木製の洗面器に入れて持ち運ぶ。 解き放たれた解放感から、ボクはウィッグを外した。 露天風呂にはシャンプーなどない。 洗髪や体を洗うのは、内湯で行うのだ。 だから、ボクはウィッグを外してもここで髪を洗えない。 髪を湯に浸けないように結びなおして肩まで浸かる。 誰かが見たら、女性が入浴していると勘違いするだろう。 広い風呂だと、熱めの温度でも、家の風呂よりも長く入っていられるのは、何故だろう。 手足を自由に伸ばせるからだろうか? それとも、体に不快ではないぬめりを感じさせる、独特の泉質の為だろうか? 夜空を見上げる。 雪はもう降っていない。 月と、無数の星々がボクを優しい光で見下ろしていた。 ボクの白い吐息と、湯船から立ち上る湯けむりが、その光に応えている。 なんか、自分ってちっぽけだな。 漠然とそう想った。 ボクは将来何になりたいのだろうか? いや、何になれるのだろうか? 夜空の星は、ボクのようなちっぽけな存在の悩みとか人生を、気が遠くなるくらい見つめてきたに違いなかった。 そして、たまに気紛れに奇跡なんかを起こしたり、災厄を連れてきたりしたのだろう。 ゴツゴツした岩に頭を抱かせながら、夜空を見上げていたボクは、自分がいつの間にか泣いていたことに気づいた。 それはこの先訪れる、辛い別れを予感していたのかも知れない。
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