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借り物のクロックスではあったが、ハイヒールよりも何倍も走りやすい。
アスリート顔負けのスピードで家路を急ぐ。
きっと、足元を見たらビックリするだろう。
再びありすお母さんの家に帰宅。ドアチェーンはかかっていなかった。
玄関の三和土を見ると、お父さんの靴もあった。
つまり帰宅している。
これすなわち気が重い。
ギュッと瞳を閉じて、3秒数えるというか唱える。
「ただいま。ごめん遅くなった」
リビングへ入ると、2人はダイニングテーブルで晩酌中だった。
どうやら、ボクを心配して探す気はなかったらしい。
「ほら、お父さん、ちゃんと帰ってきたでしょ」
ありすお母さんが肘で小突く。
ボクは必至で走ってきたから、年不相応な化粧は崩れ、髪は乱れ、まだアルコールの匂いもした。
「何やってんだ、碧! そんな服、父ちゃん買った覚えないぞ」
「いや、一番に怒るポイントそこじゃないし……。人探ししてて遅くなった」
人探ししてて、アルコールに薬盛られて昏睡してました、なんて言えない。
「いいじゃない、碧ちゃんも無事に帰ってきたんだから。その辺の族にやられるようなやわな鍛え方もしてないし」
「甘い甘い。だめだ、碧。世の中の男なんて汚いんだ。薬を盛られたらどうしようもないぞ」
げ、ますます、言えない。口が裂けても言えない。
恥ずかしさと、まるで全て見透かされているかのような後ろめたさから、ボクはドラマでよく耳にするあのセリフを言ってしまった。
「関係ないでしょ! いつまでもコドモ扱いしないで!」
関係ないは、余計だったかな。
親子関係だもんね。でも、もう後戻りできない。
自分が悪いってことも百も承知だ。
子供が生意気言うんじゃない、って平手打ちされると想い、視線を外して身構えた。
でも、静かだ。
恐る恐る視線をお父さんに戻す。お父さんと目が合った。
「子供じゃないから、心配なんだ!」
結局、平手打ちされた。でもそれだけだった。
後は、いつも通りの日常に戻った。
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