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その時、初めてぼそりと呟いて答えた。
「声優になりたい」
本当なら地元で就職するのが当たり前だった。
口にした夢を成すためには親元を離れなければならない。
母子家庭で生活に余裕なんかなくて、日々生きるのだって毎月赤字で、母は貯金なんか出来なくて、自分の服なんか何年も買わないクセにバカみたいにデカくなる俺の成長に合わせて服も靴も何でも次々と新調してくれる。
就職して母の元に留まり、地道な人生を送る事を望まれる……夢など否定される……そう思っていた。
なのに母は「ふ~ん……判った」と言い、専門学校を探して来るように告げてきた。
俺は『行けるの?大丈夫なのか?!』と声に出せず驚いたままの顔を母に向けていたが、読心術でも持ち合わせているのか
「あんたの進路のために学資保険というものに入っている!入学金くらいは出す。先の資金は自分で何とかしろ。母は何もしてやれんのだから、自力で生活して遣りたい事は遣れ」
と母はニンマリと口元を吊り上げた。
俺はちょっとだけ気恥ずかしく苦笑いをして頷いた。
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