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気紛れ、いや、疲れていたのかも知れない。
母の底抜けに明るい楽天的な声が聞きたかったのかも知れない。
何故か俺を送り出した後の淋しげな後ろ姿が浮かんだ。
呼び出し音が数回鳴ると「はいよ~」という気の抜けた懐かしい声がスマホから響いた。
なんて事はない、どうでも良い話と近況、話せる程度の事務所の話などを軽い調子で喋り尽くした。
母は「ふ~ん」「へぇ~」「そう」などと相槌を打ちながら時折笑い声を上げて聞き入ってくれた。
「あんた、続けられそうか?」
一通り喋り倒して途切れて流れた沈黙の後、母は静かに問い掛けてきた。
聞きたかったのだろう。
心配なのだろう。
物になるかどうか判らない職に時間を費やす俺を気にして、頭を悩ませ続けているのだろう。
当然だ。
俺は幾つになっても母の子で、母の手を煩わせているのだと自覚する。
「────大丈夫だよ。まだ、遣れる」
そう強く答えるので精一杯だった。
「そうか、禿げるなよ~またな~」
と笑う母との通話を終えた。
堪えきっていた涙線は決壊してしまった。
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