人生を変えるためのシンプルな法則

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 人間は、死すべき存在だ。いつか来る死を見据え、それでもなお死に抗わんとする。その方法のひとつとして、後世に名を残そうという人々が出てきた。そうした者たちの功名心こそが、これまでの世界を作ってきたといっても過言ではない。しかしまた、その野望こそがその世界を壊そうとしている。それは、幾度となく繰り返されてきた歴史のアイロニーの極致であろう。だけどもう、誰もその皮肉で笑いはしない。なぜならば、みんな「夢を叶える」ことに夢中だからだ。  ――世界が大きく変わり始めたのは、一ヶ月ほど前のことだった。それが具体的にいつ始まったのか、どこで始まったのか、引きこもりの俺にはわからない。ただ一つ知っているのは、それくらいの時期を境に、あらゆる書店で〈自己啓発・ビジネス書〉のコーナーが拡大し続けているということだ。そして今、俺の自室の本棚の状況から推測するに、世界中の本という本が自己啓発書になっているのだろう。かつての漫画や雑誌はすべてタイトルに「人生」だの「仕事」だの、あるいは「夢」だのといった言葉が入った本になってしまっていた。  インターネットサイトも、およそ侵食されていた。そんな中、かろうじて生き残っているのがこの匿名掲示板サイト、「ラファルグ.jp」だ。特殊なブラウザを介してのみ接続することのできる、いわゆる深層webという領域にあるサイトである。しかし、このサイトがいまだ生き残っているのは、そうした環境的要因よりも、利用者の属性によるところが大きかった。   ページを開くと目に入ってくるトピックの数々。その大半を占めるのは、「働きたくない」「『君も変われる』とか余計なお世話すぎw」などなど、ネガティブな言葉ばかり。言ってみればこのサイトは世の中の怠惰が沈殿してできた(おり)のようなものなのだ。
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