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「わしじゃったら、僧侶を勧めたのう」
「それは、どうしてですか?」
セーファスの問いにホイットニーは哀しそうな顔で答えはじめた。
「奴は感情を殺そうとすべきではなかったんじゃ。むしろ逆に、その哀しみ、痛み、恐怖、後悔、それらを全てありのままに感じ切る必要があったんじゃ。苦しいことじゃがの。だがそれらを感じ切ることで、普通の人間には分かり得ないような他者の痛みを共感できるようになるんじゃ。修行の末それができるようになれば、多くの迷える子羊を救い、多くの人に愛される素晴らしい僧侶になったかも知れぬの。まあ仕方ない。すでに終わったことじゃ」
ホイットニーは遠い目をして窓の外を眺めた。
「ところで、もうここへ来て1年になるんじゃが、まだ元の世界へ戻る方法は見つからぬのか?」
「はい。合間を縫って調べてはいるのですが……」
「そうか。致し方ない。暫くこの仕事を続けるかの」
「今度のお客さんには、幸せな転職をしてほしいものですね」
セーファスの言葉に、ホイットニーは深く頷いた。
客の足音が聞こえ始める。
「大長老、お客様ですよ。ちゃんと敬語で接してくださいね」
「うむ」
扉を開ける音がする。ホイットニーは満面のつくり笑顔で言った。
「ようこそ、マーダの転職相談所へ」
【END】
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