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2、医師の意志
「あの……」
1人のスーツ姿の男性が訪れた。歳は30代だろうか。
「マーダの神殿によくぞ来……」
厳粛な表情をしたホイットニーが重い声で言いかけたところで、セーファスが耳打ちする。
「大長老、ここは龍の星ではありません。相手はお客さんですよ。生活がかかっているんです」
セーファスの助言を耳にしてホイットニーの顔が一瞬だけ渋くなった。そして、
「いらっしゃいませ、マーダの転職相談所にようこそ」
と、非常に慣れない笑顔を作り、ハイトーンの声で言った。
「あの……わたしこういう者なんですけど、転職したいんです」
男性は名刺を取り出した。男性の名前は高橋慶次。肩書きは高橋総合病院内科小児科医局長となっている。高橋はかなり思い詰めた表情だ。
「おぬしがなりたいのは、どの職業じゃな?」
とホイットニーが言いかけたとき、セーファスは容赦なくホイットニーのつま先を踏む。
「ぐっ……高 橋様 は、どう いった職 業をお 探しでらっ しゃいます か?」
ホイットニーは痛みをこらえつつぎこちない日本語で高橋に尋ねる。
「実は……」
高橋の希望を聞き取ったホイットニーは押し黙る。
「おぬし…いや、高橋様がなりたいその職業は、なれないことはないですが、上級職にあたるので、特定の職業の経験をマスターまで積む必要がありますね。最低2年はかかるかと」
「2年じゃ無理なんです。あと2ヶ月以内になんとかなりませんか?」
ホイットニーは考え込んだ。
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