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終章 失敗の理由
「あっさり捕まって、あっさり死刑とはのう」
ホイットニーとセーファスが日本に飛ばされてきてもうすぐ1年になる。昨日の死刑判決を受けて弁護側は控訴しない方針とのことだ。よって2週間後には高橋慶次の死刑が確定する。新聞の一面を見ながらホイットニーはため息をついた。
「いくら父親の余命が1年だったとはいえ、2ヶ月で修行を終わらせて転職後2日で犯行に及ぶとは……いくら何でも焦ったのう」
ホイットニーは再びため息をついた。
慶次は置き手紙を残した後伊賀に出向いて短期間で忍者の修行を積み、外国人窃盗団に紛れての盗賊の修行も無事終えた。とはいえアサッシンとしてのスキルを全く積まないまま転職2日目での大量殺人敢行。これで犯行が上手くいくわけはなかった。ホイットニーの予言通り、転職は大失敗に終わったのである。
「でも大長老、どうして失敗を予言できたんですか?」
「セーファスよ。アサッシンの心得で最も重要なことは何じゃと思う?」
セーファスが答えに窮すると、ホイットニーは静かに答える。
「無の心じゃ。心の中を真っ黒に染め切り、どの感情も感じない。すべての殺人に対してマシーンと化すこと。これが最も重要なことなんじゃ。奴はそこが分かっておらんかったの。恨み、後悔、復讐心、そして愛してもらえなかった哀しみ、こんなものを抱えていたのでは判断も誤るし、仕事もブレる。標的も誤る。奴はアサッシンを甘く見とったの」
そう言うとホイットニーは手元の緑茶をすすった。
「彼、どう思っているでしょうね?父親への復讐という夢は叶えましたけれど」
セーファスの質問にホイットニーは首を横に振る。
「あんなものは夢でも何でもないわい。夢というものは、健康な心に宿るものじゃ。純粋に自分の幸せを願い、身近な者の幸せを祈る。この時にはじめて夢が生まれる。そして、皆でその幸せを勝ち取ろうとする。これが本来の夢の叶え方じゃ。奴の行動は、夢を叶えたわけでも何でもない。ただの執着の表現であり、ただの自己満足じゃ。奴の心の中には虚しさしか残らぬじゃろうな。哀しいのう」
ホイットニーはそう言うと窓を開けた。
「大長老は、もし彼がまだ生きていたらどの職業への転職を勧めましたか?」
セーファスはたまらず尋ねた。
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