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「ずいぶんと御怪我をしているようだが、大事はないですか」  鬼は、顔に似つかわしくない低くおちついた声で、ていねいにたずねました。せいのたかさは、シンデレラのじつに倍はありました。 「ええ、お気になさらないで。すこしやんちゃをしてしまったのです」  シンデレラはきびしくもありましたがゆかいだった旅路をおもいだし、えがおでいいました。 「そうですか。もしおつかれでないのなら、ご一緒に踊りませんか」 「わたくしでよければ、よろこんで」  鬼は、うつくしいシンデレラが自分のようなみにくい鬼のさそいをうけてくれたことに、シンデレラは、こころやさしく紳士的な鬼がきたならしい自分に声をかけてくれたことに、それぞれとてもおどろきました。そしてすぐに手をとって踊りはじめました。  ふたりの踊りは、優雅で上品なのにもかかわらず、情熱的で、そして自由にみちあふれていました。だれもが一目みただけでふたりにくぎづけになりました。ゆめのなかにいるように、ふたりは踊りつづけました。  そうしてしばらくたったころでした。  ごうん。ごうん。 「あら、なにかしら」  シンデレラはくるくるまわりながらたずねました。 「どらの音だよ。まいにち子の刻をつげているのさ」 「まあたいへん!」  シンデレラはあわてて踊りの輪をぬけだし、ごちそうにむちゅうになっていた動物たちをよびあつめて岸にむかいました。  ところが時すでにおそし。  みちみちた海はむこう岸とこちらをくっきりとわかち、わたるすべはありません。 「どうしましょう。こまったわ」  シンデレラはおいおいと泣き、そのなみだで水かさがまた増しました。犬と、その背にのった猿と鳥も、とほうにくれるばかりです。 「どうなさいましたか。おじょうさん」  やさしい声にシンデレラがそっとふりかえると、さきほどの鬼がそこに立っていました。
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