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「言いつけをまもらなかったわたしがわるいのです。いえにかえれなくなってしまいました」
「案ずることはありません。のれんにうでおし、鬼にかなぼう。御宅までおくりとどけましょう」
鬼はそういうと、ひょいとひだりのうでにシンデレラと三匹のおともをかかえ、みぎてにつかんだかなぼうをぐいとのばしました。
かなぼうはぐんぐんとのび、むこう岸にちかづきます。
「えいやっ」
岸にひっかかったかなぼうは、ぐいっと竹のようにしなり、ぱちんと弾けて鬼ごと皆を空中にほうりました。
「とてもすごい風がふいたわ」
「風じゃあない。ぼくらが飛んでいるんだよ」
あるいてきた道のりをはるかかなたの下にながめながら、あっというまにシンデレラの家につきました。
すこしおくれて、とちゅうからひとりで飛んできた鳥も、ぱたぱたとまいおりました。
「それではおじょうさん。わたしはこれで」
鬼はシンデレラをいりぐちまで見送ると、わかれのあいさつをしました。犬は犬らしくワンと吠え、猿はキイと鳴きました。
「わたし、あなたと離れるのはさびしいわ。またあえるかしら」
「いや、もうお会いすることはないでしょう。もとよりうつくしいあなたに、みにくいわたしでは分不相応。つかのま、しあわせな時をすごせた。それだけでじゅうぶんすぎるくらいです」
鬼はそういって、シンデレラから目をそらします。シンデレラはとてもかなしくなってしまいました。
「不釣り合いだなんてこと、あるものですか。あなたに出会えたとき、あなたと踊っているとき、あなたにかかえられて空をとんだとき。どれも、あんなにすばらしい気持ちになれたのは生まれてはじめてです。だいたい鬼さん、ここからどうやって島までかえろうというの」
「ごあんしんを。釈迦に説法、鬼にかなぼう。このかなぼうさえあれば……やや!」
鬼はじぶんの右手をみやり、泡をふきました。どこで落としてしまったのか、なんとかなぼうがないのです。
「おい、そこの鬼よ」
あわてながら鬼が顔をあげると、シンデレラのうしろに、魔法つかいがぬうと立っていました。
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