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「きさま……鬼ではないな」
鬼は、ははあとひれ伏しました。
「いかにも。わたくしの真の姿は鬼ではありません。数年前、いやもっとむかしのことでしょうか。くらしていた城に、じゃあくな魔術師があらわれました。結婚あいてをきめる舞踏会の前の日のことでした。そやつに自身の姿をかえられ、みにくい鬼となったあげくに知らぬ世界の知らぬ島へととばされたのです」
「さよう」
魔法つかいはふかぶかと頷きました。シンデレラはあっけにとられています。
「この少女もおなじこと。本来ならばつらい運命を耐えしのんだすえ、いずれは王子に出会えるところであった。しかし明日に舞踏会をひかえたその日、王子がなんと失踪したというではないか。舞踏会がひらかれなければ、魔法つかいであるわたしの出番はない。しかしこのままでは、気だてのよく心のやさしい彼女があまりに不憫でならない。そう思ったわたしは、彼女をこちらの世界につれてきたのだ」
シンデレラは思いだしました。
あの日、継母とふたりの継姉は、いつもいじょうにシンデレラにきつくあたりました。もちろんそれは、王子が失踪し、舞踏会がひらかれなくなったからにほかなりません。
シンデレラは姉たちを気の毒にはおもいましたが、さすがに、雑巾のはいったきたないおけの水をあたまから浴びせられたのにはこたえました。こぼれ落ちるなみだは、とめようとおもってもとまりません。泥水とまじって、ほほにながれおちるしずくをかんじた瞬間、シンデレラは雑巾ごと知らない山奥へととばされたのでした。
「では、この方は、ほんとうは」
シンデレラはおもわず口にだしました。
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