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「はい。わたくしはもとの世界では王子の地位にありました」 「王子さま。こんなところでであえるなんて、夢のようです。島でお会いしたときも運命だとおもったのに、今またそれを感じます」 「あなたのようなうつくしい方にそうおっしゃっていただけるなんて、わたしの方こそ夢のようです。こんな見た目のわたしにも、ほかの方にするのと変わらずやさしくせっしてくださる。あなたは姿だけでなく、心までうつくしい方なのですね」  この姿にかえられてから、はじめてやさしさにふれた鬼の王子は、おいおいと泣きました。うつくしいものは泣き顔までもうつくしいとよくいいますが、みにくいものの泣き顔は、もはや見ようとも見えないほどに、みにくいものです。  しかし、シンデレラは、そのおおきなからだをしっかと抱きしめ、ほそいうでであたためるのでした。  魔法つかいがいいました。 「鬼の王子よ。そなたをもとのすがたにもどしてしんぜよう」 「ほんとうですか」  鬼の王子はとてもおどろきましたが、魔法つかいはにやりと笑っていいました。 「このわたしを誰だとおもっている。彼女をしあわせにするのがわたしのやくめ。彼女がそなたを愛するというのなら、そのすがたを異形からときはなつのもまたわたしのやくめであろう」  魔法つかいがつえをひとふりすると、鬼の王子はしゅるしゅるとちぢみ、人間らしいおおきさになりました。みにくい顔はりりしくととのい、ぼうぜんとした栗色のひとみがシンデレラをみつめました。 「ああ、王子さま。さっきまでの姿だってきらいじゃなかったけれど、あなたがそのすがたでこれまでずっと生きてきたかとおもうと、今のお顔もとってもいとしいわ」  シンデレラはかんきわまって王子にふたたび抱きつきました。王子のほうもようやくわれにかえって、「ところでおじょうさん。ぼくはきみのなまえをまだ知らないのだがおしえてくれないか?」などと、とんちんかんなことをいうのでした。犬も猿も鳥も、そろいもそろって歓喜のうたをうたいました。  そして、魔法つかいは。  その喜びの饗宴をみとどけると、にっこりわらってふたりの記憶ごと、そっと姿をけしました。
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