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26時のわすれもの
「……ったく、傘を忘れた日に限って雨だもんなァ」
頭からかぶった上着に重みを感じ始めた頃、俺は街灯に照らされ、闇にぼんやりと浮かびあがるバス停を見つけた。
今日は運がいい。
迷わずシェルターの中へ駆け込む。見上げた屋根には、一匹の蛾がはりついていた。
――おまえも雨宿りか。
「さて、と。……仕方ねーよな。いつまでもここで時間をつぶすわけにいかねーし」
俺はベンチの陰を確かめ、目を細めた。
……やっぱり、あった。罪悪感に胸がチクリと痛んだが、もちろん借りるだけだ。必ず返しに来る。俺は比較的新しそうな、手前の忘れ物に手を伸ばした。
「はなしてください」
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