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やがて法律の改正で洗体の仕事はなくなり、私はマッサージのおばさんになった。
バブルも弾けて、収入は以前ほどではなくなったが、自分ひとり食べて行くには十分だった。
こんなおばさんを愛人にしてくれる男性もたまにはいて、美味しいものを食べさせてくれたり、旅行に連れてってもらったり。若い時にはできなかったちょっとした贅沢もようやくできるようになっていた。
数年後、娘は職場で出会った社会科の先生と結婚をした。入籍だけで挙式や披露宴はないからお祝いはいらないと知らせがきたのだ。その頃の私にとっては、結婚相手の男性が挨拶をしにきたり、相手のご両親と対面して苦労話を語ったり、式の日取りやら式場やらを娘と一緒に考えたり、そんな近未来の幻想に思いを巡らせることが唯一の楽しみだった。それが、たった1通の手紙で打ち砕かれた。実を言うと結婚式の前には「お母さん、今日まで育ててくれてありがとう」と娘に言ってもらえることを期待していた。それで、自分の努力が全て報われるような気がしていたのだ。だが、よく考えるとそれは私の思い上がりだったのかも知れない。だって、私はお金は稼いだが、育ててはいなかったのだから。
本当は小さいながらも式とパーティーをやっていたことを知ったのは、父の告別式の時だった。私は呼ばれなかったが、老いた父と母は出席したそうだ。
相手のご両親も学校の先生らしいから、この歳になって愛人をしているような人間を母だと紹介したくなかったのだろうと思う。
わかっている。私は、娘の人生の邪魔をしてはいけない。
そのためにも、私は惨めじゃいけない。
こっちはこっちで、楽しくやっていないと…
そうでないと
心配をかけてしまうから。
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