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娘はしっかりした子だった。
きっと、朝から晩まで私の働く姿を見ていてわがままも言えなかったのだと思う。
結婚3年目の春、夫が借金を残して蒸発。親戚中に頭を下げなんとかお金を工面し、借金取りに追われる生活は免れたものの、私はまだ2歳になったばかりの娘を実家に預け、働きに出た。
頭は大して良くないが、若く、体力だけには自信がある。できることはなんでもやった。
がむしゃらに色々やり続け娘が小学校に上がる頃、やっとみんなに借りたお金を完済し、なんとか母娘2人で暮らせるようになった。借金は終わっても、生活は続く。その頃から私は、サウナで洗体という仕事をしていた。お客さんの体を洗い、その後マッサージをする。子供のことを考えてそんな風俗まがいの仕事はやめろと親には言われたが、給料が良かった。子供の将来のこと、もうすぐ働けなくなる親のことを考えると給料がたくさんあったほうがいいに決まっている。夕方から深夜にかけてが一番稼げる時間帯だった。娘の理解もあって、私は自分の力で稼げるだけ稼いだ。
2人で暮らし始めてから、娘は家事全般をやってくれていた。夜に親がいない家だったにもかかわらず、彼女はまっすぐに育ってくれた。何の問題もなく中学高校へと進学し、私立の女子短大へ行って栄養士と家庭科の先生の資格を取った。
バブル景気が押し寄せ、とても華やかな時代。
短大を出ていればそれなりにいい企業に就職できたはずだった。が、娘は辺境の学校教員になることを選んだ。娘が発つ日、私はあれやこれやと心配した。周りに頼る人もない場所で、一人でやっていけるのか、と…。すると娘が笑顔で言った。
「大丈夫。だって、今までもずっと一人でやって来たんだから。」
心臓に太い杭が打たれるほどの衝撃だった。
私たちは支え合っていたつもりだった。理解し合っているつもりだった。
けど、そう思っているのは自分だけだったことを思い知らされた。
仕事を終え、部屋に戻ったときに娘の寝顔を見るのが何よりも楽しみだった。
「よし、明日も頑張ろう!」
娘がいたから、頑張れた。2人だから、乗り越えられたのに…
娘は、いつもひとりだったのだ。
一人ぼっちになった部屋で私は泣いた。
歯を食いしばって頑張ってきた20年分の涙はなかなか止まらなかった。
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