6 氷の女王(つづき)

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そして、発見したのが小谷の存在。 そもそもこの販売店の営業職には、二種類がある。 もちろん主流は外回りで、営業職の大半が、そちらの組に属する。 だが、直接来店してきた客の対応のため 二人の営業が、常時、店に待機している。 その一人が、ひと月余り前に移ってきた小谷。 しかし彼が、何か特別な事を沙紀にしてきているという訳ではない。 単に電話はワンコールで取り、客が訪れると、空かさず笑顔と大きな声で 迎える。 そして、もう一つ。 彼は、接客しに席を立つ前、必ず沙紀に何か仕事を頼んでくる。 吉田さん、お茶をお願いします。 吉田さん、最新のパンフレットを取ってきてくれますか。 吉田さん、点検済みのお車を正面に回すように、連絡してください。 その上、愛想よく明るく客と接しつつ、彼は次々と仕事を沙紀に振ってくる。 そして当然ながら、仕事が振られている間、 沙紀は、別の電話応対も接客も免れているという訳だ。
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