6 氷の女王(つづき)

11/24
前へ
/38ページ
次へ
これって、偶然? ……じゃないわよね。 だから、ある日の昼休みが小谷と重なった時、 休憩室で総菜パンに噛り付く彼に、ちょっと尋ねてみた。 「小谷さん」 狭いスペースに彼以外の姿がないことを確認して、小さく声を掛ける。 「あぁ、お疲れさまです」 だが彼は、屈託なく、いつもの笑顔で答えてくる。 その自然な笑顔に、思わず沙紀は、少しばかり言葉を迷った。 しかし、 「あの、私の勘違いかもしれないんですが、 もしかして私のこと、フォローしてくれてますか?」 表情で愛想を作るのも苦手だが、言葉も愛想は作れない。 だがそんな彼女に、小谷は、やっぱり人懐っこい笑顔を向けてきた。 「フォローってほどの事じゃないですよ。 ただ人間、誰でも得て増え得てはあるでしょ?  だったら、誰かの不得手は、得手な人間がやればいい。 持ちつ持たれつ、それが職場の潤滑油になる訳だし。 それに俺、吉田さんは、そのままでもいいって思うんですよ。 仕事は、むしろ出来る方なんだから」 えっ……? わずかに目を見開いた沙紀は、完全に言葉に詰まった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加