6 氷の女王(つづき)

15/24
前へ
/38ページ
次へ
何もない田舎には、逆に言えば、都会にないものがたくさんある。 それを、サービスとして提供できる仕組みを作りたい。 彼の真剣な声が、そんな夢を語る。 そして、 「それでさ、もし沙紀さえ良かったら、一緒に転職しないか」 えっ?  だが沙紀は、またしても言葉を失くして彼を見つめ返すしかない。 そんな彼女に微笑んだ彼の瞳は、熱いものを浮かべてキラキラと輝いていた。 「もちろん、NPOが派遣するのは人材だけで 運転資金は、わずかな寄付と派遣先の自治体持ちになる。 だから、決して懐事情は良くないと思うよ。 でも、そこで一年間頑張ってノウハウを学んだら 俺の故郷に、これを持っていける。 だけど、いずれにしても沙紀にとっては故郷を離れることにもなるから、 簡単に決められないだろうとも思う」 でも、今よりも夢がある。 自分に向けられる恋人の目に、更なる熱が帯びた。 「どうせ人に喜んでもらえるなら、 もっとたくさんの人が喜ぶ事がしたいんだ」 そして、「考えてみてくれないかな」と誘ってくる。 しかし沙紀には、やはりその場で彼に頷くことはできなかった。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加