6 氷の女王(つづき)

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いったい、これ以上、自分にどうしろというのだろう。 お客様と直接接触する時には、必ず笑顔を作る。 電話に出る時は、普段よりも声のトーンを一つ高く。 クレームの電話の際には、声のトーンは普段より一つ柔らかく、 言葉遣いも塩らしく。 そして、お客様からの電話の時は、内容に関わらず最後に 「お電話、ありがとうございました」と加える。 配属されて間もない頃、先輩事務員から教わったこれらの事は 守っているつもりだ。 それでも、彼女が客と接触があれば、三回に一度はクレームがくる。 「もう、頼むよ」 懇願するように溜息をつかれるが、溜息をつきたいのは自分のほうだと 沙紀は思う。 ところが、それから一週間余りが過ぎた頃、 沙紀は、ある事に気付いて小さく首を傾げた。 あれ? 先週は、一度も課長に怒られなかった。 そして、また一週間が終わろうとした時、やはり沙紀は思い返す。 今週も、課長は私を呼び出さなかった。 だから、新たな週が始まると同時に、彼女は注意深く自分の周辺に 気を配ってみた。
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