05 幸福は頭と腹と、お口から

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 加えてこの台詞を吐くには致命的に遅すぎる。すでにリィルさんの柳のようにしなやか指は、ワタシの急所を的確に捉え、さながらワタシという楽器を奏でる熟練のハープ奏者(ハーピスト)のような流麗な手捌きで身体の上を踊っているというのに。  そして、やはり身体は正直だった。すでに全身の力という力はリィルさんのテクニックの前に完全に屈しており、尻尾だけが勝手にぶんぶんと音が出そうな程振られ、トロトロに蕩けきった顔でリィルさんに縋っていた。  てろんっ、と舌が垂れて、閉じなくなった口からハッハッと熱い呼気が断続的に漏れ出すのを止めようもなく、潤んだ視線でリィルさんを見上げることしか出来ない。  頬に赤みのさした顔で、若干鼻息の荒いリィルさんが目で細く弧を描きながら迫ってくる。 「んふふっ。そんなもの欲しそうな目で見てくるなんて、やっぱりイディちゃんは欲張りさんだね。それじゃあ、もっと幸せにしてあげる」 「ハッハッハッ」 「はい。どーぞ」 「ぅんぐ」  だらしなく開いた口にリィルさんの指が唐突に差し入れられる、と同時に口いっぱいに甘味と仄かな酸味が広がって様々な果実の香りが鼻を抜けると、じゅわりと唾液が溢れてきた。 「ん~~っ!」  いつの間にかリィルさんの手に渡っていた糸玉を口の中に押し込まれ、先程までとはまた違う幸福感に感嘆が鼻から漏れて出た。 「どう、幸せの味でしょ?」     
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