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夏から秋へと移り変わってゆく空気の色は、まるで私の心情を溶かしているようで何処か切ない。
私の心はいつも何かが欠けている。とても大切な何かが。
街の喧騒の中で、その欠落は一層際立つ。
私とは無縁に咲く、擦れ違う学生達の花。
手を繋ぐ恋人たち。
ただいまとおかえりなさい。今日は何食べたい?
可愛い雑貨屋さんの前を、ただ通り過ぎる。
風を纏う街路樹。
オブジェの沈黙。
空の青。
すべてが私を孤独にさせる。
立ち止まると人の流れに置いていかれてしまうような、ぼんやりとした不安。
息の吸い方、心臓の動かし方、歩き方、誰に習ったのだろう。
愛の囁き方を誰も教えてくれなかったから、私の中に空洞が出来た。
どうして私はいつも独りぼっちで、どうして私だけ何処にも居なくて、どうして私だけこんなにも虚ろで、どうして私だけ寂しくて、悲しくて、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして――――どうすればいいの?
プチトマト、パプリカ、ビーツに赤ピーマン。
私は赤が好きだ。赤いものを見ると、ついつい手を出してしまう。
だって赤は生命の色だ。燃えさかる情熱の色だ。
恋をする乙女に相応しい色なのだ。
彼に電話をかけてみる。お腹を空かせて来てねと伝えるために。
また、繋がらない。もしかして、避けられているのかもしれない。
何か気に障ることでもしてしまったのだろうか。だから怒って電話に出てくれないのだろうか。
でも、きっと私の炊き込みご飯を食べれば機嫌を直してくれるはずだ。笑顔になるはずだ。
「よし、奮発して苺も買おう!」
会計を済ませると、急いでマンションへと帰った。
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