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一台の車がアパートの前に停まる。
その周辺には既にサイレンを灯したパトカーが何台も停まっていた。
制服姿の警官たちが黄色い立入禁止ラインより内側に人が立ち入らないように監視している。
「はい、ご苦労さん」
車から降りたロングコートの刑事が彼らをねぎらうように手を挙げて挨拶しながら、立入禁止のラインを越えて、アパートの一室に向かう。
「で、ガイシャさんは、そんなに酷い状態だったの?」
案内をする警官の一人が青ざめた顔で頷く。
「ええ、それはもう。被害者の女性、首から下はもう原型を留めないくらいにぐっちゃぐちゃで。部屋中に肉片や血が飛び散っていて。それはもう、どうやったらこんな残酷なことができるのかってくらいで……犯人は完全に狂ってますよ」
「目撃者とかは?何か言い争うような声を聞いたとかさ」
「それが……昨夜、被害者の笑い声が聞こえたと隣の部屋の住人が」
「笑い声?」
「ええ、それと感極まったような声も。『夢が叶った』とか『これが私の夢の叶え方だ』とか」
「夢……夢ね……」
ロングコートの刑事は、階段を昇りながらふと思った。
「刑事になりたいってのが、俺の子供の頃からの夢だったな。まさか、こんな酷い事件現場まで見なきゃいけないなんて思ってもみなかったよな」
刑事は、小さくため息をつく。
「この部屋です。ドアを開けますよ」
警官が、ゆっくりとドアのノブを回す。
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