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「――エリザ姫?」
あ、と意識を戻した私に、その人は胡乱気な眼差しを向けてきた。
差し出されたハンカチを受け取って、居眠りをしながら、よだれをこぼしていたことに気付く。
「あ、ありがとう・・・・・・、リューク。紅茶のおかわりを頂けるかしら?」
ハンカチでよだれを拭き、そうお願いするとリュークは、「会議を進めてくれ――」と周りに命じた。
エリザというのは私のことだ。ウィンディール国の第一王女エリザ、それが私の役柄だ。
この国は、魔法使いの国王が君臨する国だ。
彼の名前はエドワード。本人は「愛の魔法使いだ」という。
愛――、あの人に愛なんて言葉は似合わない。呪われた男、なのに。
「で、今度の出撃は、リュークがでる?」
「リュークが行くの? 今度は魔物を狩るのだったかしら?」
眠っている間に会議が進んでいて、わからないままに尋ねると、話をしていたアインが頭を抱えた。
「姫、聞いていた振りくらいしましょうね」
アインは、呆れたように私を見つめる。
「姫は聞く必要などありません」
国王は、最早国を治めるということに飽きてしまった。彼は既に四百年ほど生きている。彼の趣味は、いわゆる慈善事業だろうか。
私の役柄は、彼の娘だったから、姫として国を導かねばならない。
私が? 私が姫として導く? 誰も彼も私にそんな役柄を押し付ける。けれどリュークは違う。彼は私にそんなことを言わない。
「姫は戦いの場にいっても無力なだけですから」
リュークは知っている。私が国王の娘ではないことも、役立たずなことも。だから私から距離をおこうとするのだ。隣に立つ彼は、私の紅茶をいれているような人間ではないはずだ。閣下と呼ばれる地位にあるのに、その大きな手で小さく見えるカップに私の望む紅茶を注ぐ。
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