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 私の魔力はとても大きい。魔法使いの王であるエドワードの強力な魔法の壁を打ち破ったのは、私の大きすぎる制御できない魔力だった。エドワードは、私に制御するための楔を打ち付けた。それがリュークだった。私は覚えていない。傷だらけで、国王の魔力の壁を打ち破るのに魔力の大半を使い果たし、眠りに落ちていた。  その間に何があったのか。私は知らない――。  楔は、私の魔力が溢れるとリュークに注がれるというものだ。リュークと私の間に壁はない。リュークは私の魔力を魔法使いのように自らの力として戦うことが出来る。騎士であるリュークは、強ければ強いほど、一番強い敵と交戦しなければならない。  血まみれ、騎士――。最高の騎士であり、最低の魔法使いとなった――。  この国は平和だ。毎日、人々は争いのことなど気にせず、自らの生活を豊かにすることを願って日々を送っている。  魔法使いですらそうだ。この国には魔法使いがそれなりの数いる。皆、必死に周りの人間が幸せに暮らすための伴侶を探すことに心血を注いでいるのだ。 「昨日はね、隣町のマイティとシンシアに愛の魔法を行ったんだよ。あれほどお似合いのカップルは初めてだよ」  そう言って、自分たちの仕事が完璧であったことを誇るのだ。  馬鹿か――。隣りの国は、毎年この国を狙って派兵しているというのに。東の森に魔物が発生して、何人もの騎士が怪我をしたというのに・・・・・・。  そして、私もどうやって進行を防ぐべきか意見交換している会議で居眠りをこいている。今日は暖かくて、なんだか気持ちがいい。  皆眠ってしまえばいいのに。そうすれば、争いに赴かなくてもいいし、怪我することもない。  リュークを身代わりにして、安穏と王宮で居眠りをする王女である自分を蔑まなくていいのに。
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