国王

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国王

 リュークが行ってから三日だ。馬の脚を考えて、ゆっくり行ったとしても現地についているはずだ。  ウィンディール国には、時折魔物と呼ばれる不思議な生物が発生する。その実態は、アインを筆頭にした国の精鋭にしか明かされていないらしい。勿論、私は見たこともない。  この前魔物が現れたのは東の地域で、大きな犬のような感じの獣のようだったという。魔力の歪(ひずみ)が形となったとか、他の国の刺客だとか噂はあるが、噂に過ぎない。前回もリュークが派遣されて、魔法の剣(グランドクロス)で仕留めたという。  国王は、何故戦わないのだろうと、疑問に思う。魔法使いなのに――。最強だと聞いたのに、愛についてしか彼は動かないという、が、本当のところはどうなのか私にはわからない。  国王は、国を覆う魔法防御壁を張っていて、そのおかげでこの国は安全だということは、私は知っている。その魔力の大きさを考えれば、最強だというのは、きっと本当のことなのに・・・・・・。  私は、国王に初めて会った時に、「あなたなんか大嫌い」と叫んでから、実は一度も「お父様」と呼んだことはない。あの人は、些細なことだと思っているようで、私のことを「俺の可愛いエリザ姫」と言う。あの獰猛な視線で、あんなに恐ろしい気配を持っているのに、皆はそれに気付いていない。彼は常に魔法を使っているからだ。  皆はあの優しい、穏やかなと国王を評する。気付くのは、彼の魔法にかからない強い魔法使いのみ――。リュークですら、あの人の本性を知らない。  あの人は酷い。私が眠っている間に私に誓約をさせて、リュークに私の魔力の全てが流れ込むようにしてしまった。元々私は搾取されるだけの人生を生きていたから、それ自体に不便を覚えたことはない。ただ、リュークには申し訳ない。彼はその魔力を留めておくことができるが、それにも限界がある。溢れ出た魔力は、歪となるはずだ。  だから、彼は危険を承知で魔法を使うために魔物の討伐に赴く。氷の魔力甲冑(センスアーマー)を身に着け、魔法の剣(グランドクロス)で戦う。彼一人でどうにかなる相手ばかりではないから、沢山の騎士達が手を貸すが、怪我をすることだって、命を落とすことだってあるのだ。  何故、あの国王(エドワード)は、最強の魔力で戦わないのだろう。
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