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戦い
瞬間の気持ちの悪さを別にすれば、アインが行ったものは、最高の魔法といってもよかった。今、私とアインはリュークの前に立っているのだから。
「ア、アイン! アイン!」
気持ちの悪さを必死に我慢している私の目の前に、意識なく大木といっていい大きさの木につらされているのはリュークだった。
「おやまぁ、随分色っぽいねぇ」
アインは氷の鎧もなく、あちこちを切り刻まれて素肌も露わなリュークを見て、感慨深げに呟いた。白い顔、巻きついているのは木の枝といったところだろうか。
「リューク!」
「木の化け物だね――」
腕が反対側に向いているような気がした。あちこちに血が出ている。
「リュークが死んでしまう!」
「あんまり僕はそういうのと相性が良くないんだけどね」
仕方ないか――と、アインは剣を抜いた。
「火の精霊――」
アインが口から吐息を剣に吹きかけると、その剣は青白く燃え上がった。
「姫は下がっておいで――」
アインが燃え盛る剣を木に突き立てた瞬間、ただの木に見えたものが動き始めたのだった。
木の枝がしなり、アインを狙っていくつもの葉っぱが飛んだ。その葉っぱは地面に突き刺さり、アインの動きを止めようとする。
「チッ!」
アインらしくない舌打ちが聞こえて、アインに余裕がないのが見て取れた。
どうしよう、どうすればいいのだろう・・・・・・。
しなる木の枝は、鞭のようでもあり、突き刺さる槍のようでもあった。
一本、一枚、アインが避けながら、払いながら進んでいくのが見える。
「アイン――、頑張って――」
木の動きが少しだけ緩慢になったように思えた。
木も疲れたりするのだろうか。
それでも大きな木の枝は何本もあり、アインは苦戦している。私は声もなく、見ているしかできないのが悔しい。
何故、剣を習わなかったのだろう――。
リュークに自分を傷つける羽目になるからやめときなさいと剣を取り上げられたからだ。
救護技能でもあれば、腕の曲がっているリュークを介抱できるのに――。
姫の仕事じゃないよねとアインに止められたのだ。
私が無能で、無力なのは、甘やかしすぎる二人のせいだと私は思う。
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