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そう言って微笑んでみせる。
顔...引きつってないよね。
自信ないよ...だって、私は『椿さんのニセモノ』。
ティーカップを傾けると、すっかり冷めてしまった紅茶が喉に流れ込んできた。
そのままココアサブレに手を伸ばし、そっと咀嚼する。
それはすごくすごく甘くて...。
…………すごく、すごく苦い味がした。
……桃が帰ったあとの成瀬家。
夏樹は、深いため息をついた。
「椿さん……どこにいるんだよ」
最後に見た彼女の苦しげな泣き顔を思い出し、胸がひりつく。
あんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。
ちゃんと謝りたい。再会したら一番に。
でも会ってくれるだろうか?
椿を守りたい、とかこつけて、結果的に彼女を切り捨ててしまった。傷つけてしまった。
そのあと椿が悩み苦しんでいるときには、そばにいられなかった。失踪するまでに追い込まれて、救いを求めていたに違いないのに。
(わかんねぇな...)
夏樹は頭を抱えた。
もうひとつ気がかりなのは...桃のことだ。
最近どこか元気がないように感じるのだが、何かあったのだろうか...?
(アイツには、笑っててほしいって思うのに)
辛そうな桃を見ると、椿に感じるのとは別の胸の痛みが走る。
この痛みの正体は何なのだろう……。
…………悩みの尽きない夏樹であった。
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