第1章 雨降る空とココアサブレ

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そう言って微笑んでみせる。 顔...引きつってないよね。 自信ないよ...だって、私は『椿さんのニセモノ』。 ティーカップを傾けると、すっかり冷めてしまった紅茶が喉に流れ込んできた。 そのままココアサブレに手を伸ばし、そっと咀嚼する。 それはすごくすごく甘くて...。 …………すごく、すごく苦い味がした。 ……桃が帰ったあとの成瀬家。 夏樹は、深いため息をついた。 「椿さん……どこにいるんだよ」 最後に見た彼女の苦しげな泣き顔を思い出し、胸がひりつく。 あんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。 ちゃんと謝りたい。再会したら一番に。 でも会ってくれるだろうか? 椿を守りたい、とかこつけて、結果的に彼女を切り捨ててしまった。傷つけてしまった。 そのあと椿が悩み苦しんでいるときには、そばにいられなかった。失踪するまでに追い込まれて、救いを求めていたに違いないのに。 (わかんねぇな...) 夏樹は頭を抱えた。 もうひとつ気がかりなのは...桃のことだ。 最近どこか元気がないように感じるのだが、何かあったのだろうか...? (アイツには、笑っててほしいって思うのに) 辛そうな桃を見ると、椿に感じるのとは別の胸の痛みが走る。 この痛みの正体は何なのだろう……。 …………悩みの尽きない夏樹であった。
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