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とりあえず部屋着のパーカーから、手頃なワンピースに着替える。
荷物を入れる手提げバッグを持って階段を降りると、チャイムの音が鳴り響いた。
「桃ー鈴木さん」
「あ、うん今行く!」
厚底スニーカーに足を突っ込んで玄関の扉を開ける。
若干見慣れてきた黒塗りの高級車が停まっていた。
「こんにちは、鈴木さん」
「すみません山中様。今日はバイトのない日でしたのに」
申し訳なさそうに言う鈴木さん。
「あー……暇だったんで別にそれは大丈夫なんですけど...何か、あったんですか?」
車に乗りこみながら尋ねると、鈴木さんは顔を曇らせた。
「それが……ですね」
キュルルルル、とエンジンのかかる音がする。
鈴木さんは静かに続けた。
「椿様の居場所がわかったかもしれないのです」
成瀬家のお屋敷に到着してすぐ、私は猛ダッシュ(ワンピースが足に絡まって、かなり走りにくい...)。
椿さんの居場所が...わかったかもしれない。
それは喜ぶべきことで。
そうあるべきことなのはわかってるのに素直に喜べない自分がいる。
だって...私はきっと椿さんに勝てない。
私はお嬢様の『フリ』。ホンモノにはなれない。
それに、東条の中にいるのはやっぱり椿さんだから。
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