第06説 月下の邂逅

1/1
前へ
/36ページ
次へ

第06説 月下の邂逅

 満月の夜、(すえ)(やしろ)が建ち並ぶ境内(けいだい)奧の信太(しのだの)(もり)で待っていたのは黒髪に白い耳と黒い着物に白い尻尾を()やした綺麗(きれい)な女の(かた)だった。よく見ると、夕暮れにすれ違った白髪(はくはつ)の白い着物を着た若い女性に似ていた。その女の方は、こう(みずか)らを紹介した。 『私は人間界で(くず)()()と呼ばれ、神様の一種として(あが)められている』と…。  自分は、ある質問を自称・神様の葛ノ葉さまにぶつけた。 「では、なぜ。何故(なぜ)、お爺ちゃんを助けてくれなかったのですか?」  葛ノ葉さまは、月夜空(つきよぞら)を見上げた後、自分の(ひとみ)を見つめて一言(ひとこと)(つぶや)いた。 『()(なた)の祖父の(けん)については本当に申し訳なかった。すでに(がん)が全身に転移していて、肉体的に神の手でも(ほどこ)しようがなかった』 「神様の(くせ)に」  自分は、つい口走ってしまった。 『“神様の癖に”か…。神様でも治せないことはあるんじゃよ。全ての神様が万能であるとは限らない』 「それなら、何故(ナゼ)。葛ノ葉さまは、此所(ここ)にいるんですか?」 『この地域の土地を(まも)る為じゃ…』 「でも、お爺ちゃんは。お爺ちゃんは‥」  自分は泣きたくないのに自然と泣いてしまう。どうにも涙が止まらなかった。両手で涙を(ぬぐ)う中、手に握っていた人型の式神が神隠しのように自然と消えてゆく…。 『お爺ちゃんを護れなくて、ごめんよ。ごめんよ…』  そう言われながら、(あたた)かい(ぬく)もりが自然と自分を(つつ)んだ。自分の(すす)り泣く声だけが、静寂(せいじゃく)の森に響いていた…。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加