4人が本棚に入れています
本棚に追加
第06説 月下の邂逅
満月の夜、末社が建ち並ぶ境内奧の信太森で待っていたのは黒髪に白い耳と黒い着物に白い尻尾を生やした綺麗な女の方だった。よく見ると、夕暮れにすれ違った白髪の白い着物を着た若い女性に似ていた。その女の方は、こう自らを紹介した。
『私は人間界で葛ノ葉と呼ばれ、神様の一種として崇められている』と…。
自分は、ある質問を自称・神様の葛ノ葉さまにぶつけた。
「では、なぜ。何故、お爺ちゃんを助けてくれなかったのですか?」
葛ノ葉さまは、月夜空を見上げた後、自分の瞳を見つめて一言呟いた。
『其方の祖父の件については本当に申し訳なかった。すでに癌が全身に転移していて、肉体的に神の手でも施しようがなかった』
「神様の癖に」
自分は、つい口走ってしまった。
『“神様の癖に”か…。神様でも治せないことはあるんじゃよ。全ての神様が万能であるとは限らない』
「それなら、何故。葛ノ葉さまは、此所にいるんですか?」
『この地域の土地を護る為じゃ…』
「でも、お爺ちゃんは。お爺ちゃんは‥」
自分は泣きたくないのに自然と泣いてしまう。どうにも涙が止まらなかった。両手で涙を拭う中、手に握っていた人型の式神が神隠しのように自然と消えてゆく…。
『お爺ちゃんを護れなくて、ごめんよ。ごめんよ…』
そう言われながら、暖かい温もりが自然と自分を包んだ。自分の啜り泣く声だけが、静寂の森に響いていた…。
最初のコメントを投稿しよう!