白い猫

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 午後7時、駅のロータリーでギターを抱えていきなり歌い始める美佐恵。人ごみの中、皆の注目を浴びている。美佐恵の透きとおるような歌声に引き込まれるように立ち止まり、歌声を聴いている。このような夢が現実になったのには理由があった。  1ヶ月前、部屋でギターを抱えて曲を書いている豊田美佐恵はシンガーソングライターを目指して頑張っている。 「いつか、この曲でメジャーデビューしたいなあ、誰か叶えてください」  その時、窓のカーテンがふわりと動いた。そこに現れたのは、真っ白な猫。二ャーンと泣いた。 「あなたはどこから来たの?ここは7階よ」 「はじめまして、私はカーナ。人の夢を叶えるための使者。呼んでくれてありがとう」 「えっ、猫がしゃべった!」 「しー、私はあなたとしか、会話できないのよ。誰にも言わないでね。それより、あなたの夢は何?」 「私はシンガーソングライターになりたいの。歌が大好きなの。いつかメジャーデビューしたい」 「歌ってみて」  美佐恵は歌い始める。カーナは静かに聴いている。 「何か物足りないわね、もっと元気な明るい曲にしたほうがインパクトあるわよね」 「そうか、わかったわ、作り直してみる」  1ヶ月後、カーナの言う通りにポップな曲を仕上げた。美佐恵が歌っているとまた、カーナが入ってきた。 「美佐恵、いい出来じゃないの、いい曲ね、この曲なら、デビューできるわ、早速、アクションを起こしなさい」 「でも、誰も聴いてくれなかったら、どうしよう! 心配よ」 「美佐恵、大丈夫よ、私を信じて頑張りなさい」 カーナはしっぽをふっていた。  美佐恵は、駅のロータリーで一人歌い始めた。通行人は、皆、美佐恵に注目している。いつの間にか黒山の人だかりで美佐恵の歌に引き込まれていた。その中に音楽プロデューサー山本の姿があった。うなずきながら微笑んだ。美佐恵が歌い終わった後、山本は大きな拍手を送り、美佐恵に近づいて行った。 「素晴らしい、うちの事務所に入ってデビューしませんか?」  美佐恵は嬉しさのあまり、泣き出した。影で見ていたカーナは安心したようにその場を立ち去った。 「さて、次に願いを叶えたい子はどこにいるのかしら?私の魔法で叶えてあげるわよ」
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