第1章

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翌日ガレの家に行くと 作業場の人の置き手紙があった。 手紙によると、うちに来るようになった時、既に右前足がなかったとの事。食事はドライフードをあげている事。予防接種もやってある事。オヤツに関しては、健康の為に、程々にあげて欲しいとの事。不思議な猫だから、あまり深追いしない方が良い事。などが書かれていた。 十分、深追いしてしまっている気がした。 その後も、ガレと俺の蜜月の日々は続き、それと共に不思議と 仕事も順調に取れるようになった。 嵯峨野屋さんの福茶んセットが ことの外好調な売れ行きで 商店街の他の店からも 何か良い提案はないか?と 俺指名で電話が入ったりする。 そのお陰もあって 来月号見開きで、縁起の良い商品を売っている店特集をやる事になって、当然、火付け役の俺が先頭切って企画を進める。 見開きページのマスコットキャラクターは、勿論 嵯峨野屋の福ちゃん。 福ちゃんがお茶屋さんの前掛けをして手招きするイラストは、何処の店でも好評で、ちょっとした 福ちゃんブームが起きていた。 数日間、仕事でいつもより遅くなった。 いつものコンビニでおでんとツマミを買い、ふと雑誌の棚を見ると、普段ファッション誌など目にも留まらないが、その時は猫特集で、表紙が黒猫でガレに似ている気がした。 思わず手に取り、いつものデブの男が会計する。 その時、その男が 「そろそろおでんも終わりですね、猫好きなんですか?うちでも猫飼ってるんですよ~」と言った。 思わぬ声掛けに、俺は咄嗟に 「えっ?あ、あー」としか返事が出来なかった。 その間、彼は、俺のおでんに蓋をして、ビニール袋を二重にし、汁がこぼれないように厳重にしてくれていた。 その時、初めて気づいた。 彼は、俺だけわざとゆっくり袋詰めしていたんじゃない。 俺の為にわざわざ、こぼれないように工夫してくれてたんだ。 俺は、自分の事が情けなくなった。 周りの事など何も見えてなかった。 体を壊して転職して以来どうせ俺は何をやってもダメなんだって腐って。 今の仕事も営業成績が悪いのは、全て自分のせいなのに。
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