第1章

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俺はその時、初めて知った。 ガレには右手の先がない。 それまで暗がりだったし、歩いたのも今日初めて見たし。 全然気づかなかった。 生まれつきないのか?それとも何か事故? そんな事を俺が気にしているのをヨソに、ガレは見せびらかすように体じゅうを舐め回す。 その日は、それ以上ガレには 近寄らず 「ガレ、又明日な」と言うと ガレはこの男は自分をガレと呼ぶんだなと腑に落ちたような顔でこちらを見た。 翌日、仕事でお客さんの所を回る時、そう言えばいつも行くお茶屋さんの所にも、茶トラの福ちゃんてのがいたなぁ~と思い出した。 この日は回る予定ではなかったが、何となく福ちゃんを見てみたくなって、顔を出した。 嵯峨野屋と言う、昔ながらのその店は、老夫婦が自宅の一階を店舗にして営んでいる。 いつ行っても、お客さんに会った事はないが、何とかなっているっぽい。 「こんにちは~。タウン誌ぱーくの柴田です。寒くなりましたね~~。」と入って行くと 「あれ?珍しいね。今日は何?来る約束してた?」 「いえ、実は、福ちゃんに会いに」と言うと、店主は今までにない笑顔で 「あれ?柴田君、猫好きだったっけ?福なら、ホラッそこにいるよ」と、首で指し示した。 福ちゃんは、店のレジ脇の空いたスペースに、奥さんが作ったであろう 古い座布団の上で、気持ち良さそうに寝ていた。 「いえ、実は僕、猫に限らず動物飼った事もなかったし、興味もなったんですけどね~」と この所のガレとの出会いから今日までを店主に話した。 店主は、やたらウンウンと 頷きながら 「いや~、猫ってのはそう言う所あるんだよ。不思議な動物なんだ、所でガレ君は耳に切れ目入ってる?ハートのさ」と言った。 「え?何です?それ」 「そっか、まだ見てないのか、今夜ちゃんと確認した方が良いな。もし切れていたら、野良猫を保護して去勢手術をして、又放したって印だ」と話してくれた。 福ちゃんはそんな話しを 聞いているのかいないのか 無理やり、店主の膝の上に移動させられても、何の文句も無さそうに、スヤスヤと寝息を立てていた。
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