第1章

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その夜、ガレは俺と目が合うと 毎度のコースを通って、ガレージまで俺を案内した。 嵯峨野屋の店主に言われた 耳のマークを確かめるため 昨夜よりガレに近づき、スマホの灯りで照らす。 あった。確かにハートのような形に見える。 そうか、ガレ、お前 野良猫で、この作業場の人に世話になってるのか。 そんな独り言を、ガレは聞いているのか、又、バスタオルの上で 先のない右手でコシコシと洗う。 その後体じゅうを舐め、ふうっと 息をつくと、目を閉じそこで眠り始めた。 寝ちゃうのかよ~ガレ 俺はなんか寂しくなって、ガレに近づき、撫でてみた。 ガレは黙って撫でさせてくれた。 なんて滑らかな触り心地なんだ。 俺は何とも言えない幸福感を感じた。 翌日も、嵯峨野屋に寄り 店主に驚かれながら 「ガレの耳にハートマークがありました。昨日は触らせてくれたんですよ」と言うと、店主は 「それは良かったね。可愛いだろ?猫は。柴田君はガレに選ばれたんだな、自分の家に招待したかったんだろ?君を」と優しい笑顔で言ってくれた。 そこから、仕事の話しになり 俺が「嵯峨野屋さんには、せっかく福ちゃんって招き猫がいらっしゃるんですから、今、猫ブームですし、福茶んセットと銘打って、各地の縁起の良いお茶をセットに販売するのとかどうですか?」と言うと ご主人も「それはイイね」でも 福の写真入りの袋とか作ったら高いだろ?」と。 「そこは俺に任せて下さい。うちのデザイナーに、福ちゃんのイラストを描かせます。それをシールにしたらどうです?」 「えっ?!イイのかい?柴田君。そんな事お願いして」 「はい。ガレの事で色々教えて頂いたお礼です。イラスト代はサービスさせて頂きますが他の実費は嵯峨野屋さんの方でお願いします。」 「もちろんだよ。なんか楽しみになって来たよ~。ありがとうね柴田君」 この日は、久しぶりに気分が晴れ晴れとして、社に戻り 福ちゃんの写真を見せて、デザイナーの女性に頭を下げてイラストを描いてもらった。 上司も俺の変わりように少し驚いてるようだった。
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